2019年11月 5日 (火)

山形まるごと探訪記〜黒沢温泉〜

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マラソン大会が終われば、愉しみは食である。

最初の一杯、自分へのご褒美はどこでいただくかが重要になるのだが、何と言っても、ここは食の宝庫山形県である。

缶ビールで軽く済ますわけにもいかない。

しかも自主的に糖質制限を行なっている以上、その大切な一杯を安易にできない。


そんな私の切ない悩みを考慮してか、S君は山形市近郊にある穴場黒沢温泉に、手際よく手配を済ませていた。

温泉でマラソンの疲れを癒してから、夜の山形に繰り出そうという段取りである。

学生時代はお互いに、他人に気遣いするようなきめ細かな性格ではなかったが、社会の荒波に揉まれて、凹んで、削られてウン十年。

すっかり角はとれて丸くなり、おもてなしの心を育むまでに至った。

成長というより進化である。


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今回お世話になる温泉宿は、通常は日帰りのお客様は遠慮を願っている格式高い老舗宿と聞き、スーパー銭湯に慣れきった私は一瞬足がすくんだが、S君と長年友人であるオーナーの特別の計らいで、到着するなり早々、大浴場へと案内される。

訊くとオーナーもマラソン愛好者で、走った後に温泉とビールを欲する気持ちは、痛いほどわかるという。

今回のコースの難所やポイントなどを取り交わすところも、マラソン愛好者ならではの会話。


黒沢温泉は、透明な水質で、まったく硫黄臭がしない、弱アルカリ性の泉質。

ありがたいことに、筋肉痛や打ち身などに効き、成人病にも効果があるという。

マラソンの疲れと日頃の不摂生な生活の両方に効く、私のためにあるような身体に優しい温泉である。

長湯してものぼせることのない温度に設定されていて、湯舟のなかで、本日頑張ったヒラメ筋とハムストリングを、十分にマッサージできて実に快適。

極楽と浄土。天空と宇宙。

鼻唄のひとつでも出てしまう。

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湯上り後は、保湿性に優れているのか、脱衣所で涼んでいても、じんわりと汗が滲み出てくる。

冬場に乾燥肌に悩む人にも、効果があるのではないかと思う。

ぜひ山形を訪れれた際は、黒沢温泉にお立ち寄りを。


そして私を待ち受けていたのは、キンと冷えた生ビール。

喉元を豪快に鳴らして、一気に五臓六腑に流し込むと、乾燥していた身体が、砂地化した土地に水が流れ込むように、一瞬にして潤いが戻ってくる。

「美味い!

思わず唸ってしまう。

「仕事おわりのビールよりも、スポーツ後のほうが、数万倍は美味い!人類が発明した飲み物で、一番はビールではなかろうか?」

S君もご満悦の私をみて、満足そうである。

もてなしの心が自然に根付いてきた。


身体も心もリフレッシュ。

食への戦闘準備が整ったところで、いざ鎌倉へ。もとい山形へ。

今宵は郷土料理と名産、銘酒に闘いを挑むつもりである。

今宵は長い。

勝ってカブトの緒を締めるとしよう。


(店主YUZOO )






11月 5, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年10月24日 (木)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン(下)〜

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大会の名が表すとおり、山形県の名所旧跡を巡るコースになっていて、完走すれば、ひと通り山形の良い所を目にできる。

4キロほど進むと、最上家の居城だった山形城跡を抜け、新幹線の跨線橋を駆けあがる。

山形城跡は、現在は霞城公園として整備されていて、雨上がりの爽やかな風が心地よい。

道幅も広くて、傾斜もないので、マラソンには理想的な公園。

私の家の近くにも、こんな公園があればと羨ましく思う。

 

 

さらに進むと、山形市の目抜き通りである七日町へ。

あの有名な花笠祭りのパレードも、この通りで開催されるそうで、声援を送る人の多さもさることながら、私設の給水所が軒を連ねて、ランナーをもてなしてくれる。

水、スポーツドリンクはもちろんのこと、シャインマスカット、和菓子、一口饅頭、山形銘菓ののし梅まであり、朝市のような活気。

一瞬、マラソン大会に出場していることを忘れ、グルメ・スタンプラリーに参加しているのではと勘違いするほど。

 

 

ただ今日はマラソンだけに集中。

食欲に負けて戦闘意欲を失いそうなので、泣く泣く、道の左側へとコースを変えた。

朝バナナの力を信じるしかない。

ただ正面だけを見て走ることにする。

 

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正面は大正5年に建てられた旧県庁舎および県会議事堂で、レンガ造りを基調とした、東京駅に通じるような厳かな佇まい。

国の重要文化財に指定されている。

この時代の建造物は風格があるから、つい見惚れてしまう。

一礼をして先へと急ぐ。

 

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コースは七日町を抜けたものの、沿道の声援が減ることなく、10キロを超えて、いくぶん足の回転が遅くなった私に、絶え間ないパワーを授けてくれる。

そしてS君がレース前に教えてくれた、このコース最大の難関、通称芋煮坂へと出る。

この芋煮坂、急勾配ではないが、2.5キロほどダラダラと続く坂で、順調にタイムを刻んできたランナーは、その長さにいつの間にか闘争心を砕かれ、最終的に平凡な記録に終わってしまうと言う、生活習慣病なような魔の坂。

 

 

S君の言うとおり、1キロほど駆け上がると、ちらほら歩き出したり、立ち止まったり、屈伸したりと、芋煮坂に呑まれたランナーたちを、目にするようになる。

ただ前月の「山梨巨峰の丘マラソン」の激坂の経験が生きたのか、キツさは微塵も感じられず、平坦地に思えるほど。

あれほど苦手だった坂が、ある日を境に楽勝と思えるとは、北極でカンガルーに出会ったような驚きである。

 

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坂の折り返し地点14キロで時計を見ると、1時間19分。

残りをキロ540秒ぐらいのペースで走れば、2時間切りも夢ではない。

そう思った瞬間、私のなかで何かが弾け飛んだ。

今まで自分が体験したことのないスピードで芋煮坂を駆け下りていく。

前を走るランナーは、私の殺気とも思えるエネルギーの放射を背中に感じたのか、慌てて右側へと避けてくれる。

まるで緊急車輌である。

 

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そのままペースが落ちることなく、1時間55分でゴールイン。

発行してもらった記録証にも、1時間55分。

疲労が慢性化しているオヤジの身体に起こった奇跡である。蜃気楼である。幻覚である。

もしかしたら、明日の朝、ホテルのベッドで笑顔のまま、あちらの世界に旅立っているかもしれない。

いや、もうあちらの世界への旅の途中かもしれぬ。

何が良かったのか。

とにかく気持ちの整理がつかない。

 

 

朝バナナか。山梨巨峰の丘マラソンか。高速バスの遅延か。夕べ食べた孫悟空の水餃子か。

大会でランナーに振舞われる芋煮さえも、心なしか、ほかのランナーより芋が多く入っているように思える。

山形が私を中心に回っている!

 

 

私の身の回りに起こる事象に動揺して、心を落ち着かせるためにベンチに座っていると、S君が清々しい顔で戻ってきた。

2時間39分。

まるで制限時間ギリギリにセットしたように好タイム。

学生時代から有言実行を信条としていた男だけある。

 

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今宵は山形の酒と肴を満喫できそうである。

闘争心が折れることなく走り切ることができたのは、山形の人々の熱い声援のおかげだろう。

あの声援があったからこそ、錆びついたオヤジの身体に火がつき、新車のように華麗に走ることができた。

 

感謝の上に、また感謝。

山形に足を向けて眠れる訳がない。

 

(店主YUZOO )

 

 

 

 

 

10月 24, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年10月18日 (金)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン(中)

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マラソン当日。

天気予報どおり、雨が降っている。

降水確率も60%と出ているから、今日は雨の中を走ることを覚悟しなければならない。

思い返すと、過去に出場した大会は、天気に恵まれるどころか、季節外れの暑さに見舞われるほどの好天ばかりで、類稀なる晴れ男の才能が備わっていると信じて疑わなかったが、本日をもってその神通力は消えたようである。

 

今回、一緒に走るのは山形出身の後輩S君。

 

ゴールデンウィークに久しぶりに集まった際、中年ならでは会話、健康診断の数値の悪さ、体力の衰え自慢に話が咲き、それ故にマラソンを始めたんだと私が懺悔をすると、S君も実は10年ほど前から、マラソン大会に出場していると言う。

 

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私からみれば、ベテランの域に達していると一瞬尊敬の眼差しで見つめたのだが、戦歴を訊くとたいしたことはない。

関門でのタイムオーバーで断念したこと数知れず。

ほとんどが制限時間ギリギリでゴールインしている、綱渡り的な記録しか持ち合わせていない。

山形まるごとマラソン出場も5回目となり、コースの特長を熟知しているものの、その経験を生かしきれていない強者である。

参加することに意義があるという言葉が、痛いほどよく似合う。

 

トイレ。ストレッチ。ウォーミングアップ。

イメージトレーニング。またトイレ。

スタート時間が近づくにつれ、否が応でも気持ちが高まってくる。

すると雨雲の切れ間から光が射し込んできた。雨は小雨に変わった。

晴れ男の才能が再び開花したのだろうか。

気温も15度とマラソン日和。

この好条件ならば、目標の2時間切りを狙わなくても、せめて謙虚に自己ベストを目指したい。

待ってろよ。心の故郷ヤマガタ。

 

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9時5分、合図とともに各ランナーが、一斉にスタート。

私のいる最後方のDゾーンは、スタート地点に辿り着くまで、老若男女が入り乱れ、芋を煮ているような混雑。

前のランナーの足を踏まぬように細心の注意を払っているうちに、2分ほどロスしてしまう。

 

しかし、そのことでは動揺しないのが、オヤジランナーの太々しいところで、箱根駅伝で謳われている「1秒を削りとれ」という熱い意気込みはない。

最大の目標は時間内に完走できるか、次に途中で歩くことなく走り通せたか、最後に自己ベストを更新できたかなのである。

初めから入賞にからむことないので、タイムロスが気になるわけもなく、あくまでもネットタイムを注視である。

 

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スタートから3キロぐらいまではランナーが多く、自分のペースで走れなかったが、徐々に団子状態がばらけ始めて、足の運びもリズミカルに、呼吸も乱れることはなくなった。

練習を含めて、今までで、一番調子が良い。

長年辛酸を舐め続けてきた人生だけに、どんな大ドンデン返しが待ち受けているのかと、一瞬不安になるほど。

この調子は本来の自分ではないと、何度も言い聞かせる。

 

まだレースは始まったばかり。

道半ばにも達していない。

 

人生に喩えるならば、青春真っ只中。

 

(店主YUZOO )

10月 18, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年10月15日 (火)

草臥れオヤジの疾走記〜山形まるごとマラソン〜(上)

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スポーツの秋。

マラソンの季節到来ということで、55才からからのアスリート宣言をしたばかりに、先月に引き続き、肉体的な衰えも忘れて、1ヶ月も経たずに出場である。

今回の舞台は、心の故郷と呼んでも差し支えない山形県で開催された「山形まるごとマラソン」。

こけし買付ではお世話になっているだけに、まったく未知の土地というわけではない。

むしろ故郷に錦を飾りに来た気分で、この大会のメインであるハーフマラソンの部にエントリーしたのである。

 

こう書くと、眩しいほどの充実した人生を送ってるように思えるが、現実の私はちがう。

前世はオオサンショウウオだったと確信するほど、日頃は怠惰な休日を過ごしていて、布団の隙間から空を眺めては、雨が降りそうだの、風が強いだのと呟いては、練習から逃れようとしている。

ただ極度の貧乏性ときているから、途中で棄権したら参加料がもったいないと思い直して、湿った布団から這い出して、渋々ウェアに着替えているのが本音。

 

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練習もエントリーしたことを後悔しては、散歩中の犬に吠えられながら、公園の周りを息を荒げて走っている。

みなさんに忠告するが、安易に55才からのアスリートなどと宣言すべきではない。

あの時は、なにかに憑かれていたのか、毎月大会に参加して、その度に記録更新して、来年には市民ランナーの憧れ、サブフォーを達成するのだと、独りごちになっていた。

 

だがこの半年、いやいやながら練習を重ねたものの、目を瞠るようなタイムが出たわけでもなく、体力維持が精一杯だった現実。

中年オヤジには、もうアスリートなどという輝かしい言葉で祝福されることはない。

 

しかし山形に向かう高速バスで、その自己陶酔の悪癖が、またもや頭角を現し、この大会の目標である2時間切りは間違いなし、ゴールしたときの決めポーズはどうしようと夢想していた。

クレイジーケンバンドの「♫やれば出来るよ〜、出来るよやれば〜」と口ずさみながら、ゴールは右脚か左脚かで悩んでいたくらいである。

根拠のない自信に満ちた人間ほど、始末に負えないものはない。

 

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7時間ほどバスに揺られ、山形駅に到着すると、陽が傾き、すこし肌寒い。

晩秋の気配である。

空を見上げると、数千羽の椋鳥の大群が乱舞し、喧しく鳴いているのが、都会では見られない異様な光景で、それ以外は人影も最後の練習をするランナーもなく、至って静かである。

 

明日、マラソン大会が開催される祝祭ムードはない。

気持ちだけは神奈川県の招待選手と意気込んでいただけに、この荒涼とした雰囲気は、すこし腰砕けである。

この熱い気持ちを鼓舞するものが欲しい。

 

そこでマラソンに最適に食べ物はバナナであると、ふと雑誌に載っていたのを思い出し、ホテル近くのスーパーで2本買った。

蝋細工のような美しい黄色いバナナである。

まだ熟すには程遠い。

この初々しさ。清々しいさ。

明日を暗示しているようにさえ思えてならない。

本当に明日、私は走るのだろうか。

 

(店主YUZOO )

 

 

10月 15, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年9月25日 (水)

草臥れオヤジの疾走記〜巨峰の丘マラソン(後編)

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さすがに日頃の練習の成果があったのか、5キロ、10キロと、多少の坂道でも音をあげることなく、無難に通過できたが、やはり懸念していたとおり陽が昇るにつれ、気温は上昇してきて、汗ばんだウェアがじっとりと背中に張りついてくる。

しかも葡萄畑には、木陰になるような大木や林道があるわけもなく、ジリジリと陽射しが降り注ぎ、不摂生が板についた中年オヤジの体力を奪っていく。



このコース、平坦地がまったくない。

走っているうちに、余程の急坂でもない限り、自分が今、坂を上っているのか、下っているのかさえも、判断がつかなくなる。


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やがてコースマップに書いてあった折り返し地点の激坂が、万里の河のごとく立ちはだかる。

この河、右に左にと曲がりくねっているだけに、どこが源流なのか、まったく区別がつかない。

距離の感覚がわからないため、どの程度の脚力を使えば辿り着けるのかと、経験値が乏しいゆえに、足が止まってしまう不安ばかりが増えていく。

まだ道程も半ばなのに、すべての体力を使い果たしてはいけない。


しかし、これもアスリートになるための試練だと決心して、「千里の道も一歩から、千里の道も一歩から」と唱えながらと上っていくうちに、私の憐れなヒラメ筋が、キュウキュウと悲しく鳴き始める。


「この坂道、初心者のあなたには過酷過ぎます。あと10年若ければ上れたでしょうが」


そんなヒラメ筋を宥めたり、叱咤したりを繰り返して、ようやく坂の上までくると、今度はジェットコースターのような急勾配が待ち受ける。

ヒラメ筋が静かになったかと安心すると、今度はゴボウのように痩せた太腿が、か弱い声で、こう祈り始める。


「天にまします我らの父よ。願わくば、この男をこの場所に膝まつかせ給え」


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しかし私にはゴールに辿り着かなければならない理由がある。

義務や正義感はないが、心境は「走れ!メロス」と変わらない。

この地域の風物詩なのか、沿道にたくさんの応援団がいて、そのなかの満面の笑みを浮かべたお爺さんの声援から、残りのコースは身体に優しいなだらかな下り坂だと知る。

それを聞いて、半ばストライキに突入していたヒラメ筋と太腿が機嫌を取り直し、「メロスのためならば、私たちも力添えいたしましょう。元々、我々は一連托生の身の上ですから」と嬉しい言葉をいただく。


走れよメロス!メロスな私!私のメロスよ!直走れ!


そんな鼻唄まじりに長い坂道を駆け下りる至福のときも束の間、運営スタッフが、ここから左廻れと大きな旗を振り、誘導しているのが目に飛び込んでくる。

その目の先には、聳え立つ葡萄の丘。


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これは幻覚である。

30℃を超える猛暑のおかげで、蜃気楼を見ているだけである。

富山湾の蜃気楼と同じである。

ブロッケン現象である。逃げ水である。ネス湖のネッシーである。


しかし旗が向けられた先には、確かに長く天国まで続くような坂があり、左右には収穫を待つ葡萄がたわわに実っている。

そんな落胆する私を慮るように、ヒラメ筋も太腿も涙ひとつ見せずに、最後の一歩まで力を尽くしたが、あえなく坂の途中で撃沈。

坂の上まで、とぼとぼと歩くことになる。


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あとで知るところには、今年は道路工事の関係で、コースが変更になったということ。

沿道で声援を送ってくれたお爺ちゃんは、何ひとつ間違っていなかった。

ただ私の心の鍛錬が足りなかっただけである。


最後は小刻みに震える両足を、庇うようにしてゴールイン。

55才からのアスリート。

まだまだ夜明けは遠い。


※写真は本文とは、ほぼ関係がありません。


(店主YUZOO )



9月 25, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年9月24日 (火)

草臥れオヤジの疾走記〜巨峰の丘マラソン(前編)

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夏の酷暑にも翳りがみえ、いよいよマラソン・シーズンの到来である。

55才からのアスリート」と銘打って、今年から始めた練習の成果を試すときがやってきた。

人はいくつになっても進化するということを、身をもって表したいところである。

メタボ、慢性疲労、気力減退、加齢臭、薄毛、成人病予備群の同期に、まだまだ塩辛い年齢になっても、準備さえ怠らなければ、あの頃のような躍動感が戻ってくるのだと、証明したいのである。

青春というには無理があるが、老兵と呼ぶにはまだ若い。

そんな並々ならぬ決意を胸に、山梨市で開催される「巨峰の丘マラソン」に出場することになったのである。



この大会、巨峰の丘という名の通り、陽当たりの良い葡萄畑の中を駆け抜けるのだが、高低差が530メートルほどあり、坂道が多い中級者向けのコース。

つまり高尾山ほどの小山を往復するのをイメージすれば良いだろうか。

大会ホームページには、天候が良ければ、アルプスの山々と遠くには富士山を臨めるという、ランナーは眼も愉しめるコースと謳われている。

坂道は得意ではないが、アスリート宣言した以上、苦手は克服しなければならない。

そんな微かな闘志を抱きながら、当日まで地元、風車公園の急坂を黙々と往復したのである。


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915日当日。

始発電車を乗り継いで、中央本線山梨市駅まで向かう。

車を使わなかったのは、三連休なので時間が読みにくいのと、完走後のご褒美である生ビールに直ぐにありつきたいからである。

人生の酸いも甘いも熟知した、オヤジならではの好判断と言えよう。

若僧には考えつくまい。


天気は雲ひとつない青空。

駅に着くなり、しっとりと汗ばむほど。

一瞬、嫌な予感が脳裏をよぎる。

山梨は盆地である。

フェーン現象で、熱気は底にたまり、風は山の上を渡っていくだけなので、気温は陽に照らされて上昇するのみ。

7時の時点で、すでに30℃近くある。

この予感が単なる思い過ごしでなければよいが。



送迎バスに揺られ、山の中腹にある会場へ。

すでに会場には多くのランナーが待機していて、ストレッチをしたり、軽いウォーミングアップをして、開始時間を今かと待っている。

大会本部に設けられたテントでは、摘みたての巨峰が振る舞われており、そちらにも多くのランナーが、口に頬ばりながら、初秋の味覚を愉しんでいる。

闘争心で咽せ返るような雰囲気がないのも、地方大会ならでは。

参加賞も巨峰が一房とミネラルウオーターなのだから、この大会のやんわりとした空気が窺い知れよう。


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940分号砲。

20キロコースにエントリーしたランナーたちが、自ら拍手してスタートとする。

ランナーの数は千人にも満たないだろうか。

スタート時によくある混雑や密集感もなく、割と早く自分のペースで走れる距離感が確保できたので、まずはひと安心。

私のような初心者ランナーは自力が乏しいゆえ、周りに呑み込まれてオーバーペースになったり、気合いが入るあまり、無理に他人より前に出ようとして、無駄に力を使い果たしてしまう。


実社会では、ライバル会社とのシェア争奪戦や同期との出世競争が日常化しているけど、この塩辛い年齢から始めたマラソンでは、華々しい記録を臨めるわけでもなく、まずは完走することであり、次に自分が目標としたタイムに、如何に近づけられるかだけである。

争わない。無理をしない。諦めない。

これがオヤジ・マラソンの三原則なのである。



※写真は本文とほぼ何も関係ありません。

(店主YUZOO )





9月 24, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年9月12日 (木)

第281回 耳に良く聴く処方箋

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スマイリー・ルイス『アイ・ヒア・ユー・ノッキング』(インペリアル/オールディズ)

今宵はニュー・オリンズの重鎮、スマイリー・ルイスを聴きながら一献。
このスマイリー・ルイスは50年代に数多くのヒット曲を放ち、同郷のファッツ・ドミノと肩を並べるほどの人気を博したというが、今や忘れられた存在。
20年ほど前にCD4枚組のアンソロジーが発売されたものの、それ以降はまったくスポットライトを浴びることなく、満足に再発も出ないままに、ひと握りの好事家の記憶にだけ息づいている、ツチノコのような存在になっている。
いと哀し。

何を隠そう、私は長年この4枚組CDを探し求めていたクチで、実際、スマイリー・ルイスはニュー・オリンズの編集盤で数曲聴いたぐらい。
好事家どころか、勝手に耳の内で音を想像している妄想家なのである。
芸名が「笑顔のルイス」というだけで、その屈託のない人柄がしのばれるではないか。
そして嬉しいことに、帰宅時にふらりと寄ったレコード屋で、オールディズ・レコードが再発した1枚に巡り会えたのである。
快哉!

このアルバムには、ボーナス・トラック4曲をを含めて全16曲が収められている。
1曲目は50年代らしい三連のピアノが鳴り響き、スマイリー・ルイスのオヤヂ声が心地よい「The bell are ringing 」。
途中で入るアルビィン・タイラーと思われるサックス・ソロの下卑た下水道のような音色で、1ラウンドにしてノックアウト。
この突っ込み気味の演奏が、50年代に全盛期を迎えていたニュー・オリンズのサウンド。
のちのロックンロール誕生に多大な影響を与えたのも、頷ける。

基本的にはブルース・コードの進行で、ゆったりとしたリズムを奏でるのを得意としているので、この手の音楽を聞き慣れない若造には、ワンパターン、どれも同じ曲に聴こえてしまうにちがいない。
しかし何十年も音楽にどっぷりと漬かった塩辛い耳には、すべての曲がそれぞれに異なった輝きを放ったように聴こえるのだよ。

大らかに歌い上げるスマイリー・ルイスを盛り上げる、デイヴ・バーソロミュー楽団の陽気なグルーヴ感。
そしてソロが回ってきたら、俺こそニュー・オリンズ一番のサックス奏者だと、激しく主張するホーン陣。
50年代のニュー・オリンズでは、夜な夜な酒場で、こんな演奏が繰り広げらていたのだろうと想像すると、この収録された16曲は一瞬にして、我が家をバレルハウスに変え、この古き良き時代へと誘ってくれるのである。
これが本来の音楽の愉しみ方なのだよ、若造くん。ワトソンくん。

と言うわけで、今宵は御機嫌な夜を過ごしている。
最後を締めくくるのは名曲「Shame,Shame,Shame 」。
編集も憎いね。


(店主YUZOO )


9月 12, 2019 店主のつぶやきCDレビュー | | コメント (0)

2019年8月 9日 (金)

阪急の情報サイト「SOUQ ZINE」でインタビューを受けました

先日の阪急うめだ本店の企画展「マトリョーシカ祭2019」に合わせて、マトリョーシカについてインタビューを受けました。

ロシア買付秘話、マトリョーシカへの思い、初めてロシアに行ったときの話など、多岐にわたって話をしています。

こうして記事になると、マトリョーシカの買付が尊い仕事のように思えて、ヘソの辺りがこそば痒い。

 

おまけに顔写真まで載せられて、恥ずかしい。

私の締まりのない顔を見てみたい方は、下記のサイトにアクセスしてみてください。

 

https://www.souq-site.com/shop/g/gMmatryoshka/

 

(店主YUZOO)

8月 9, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年7月 5日 (金)

草臥れオヤジの疾走記〜天狗のこみちマラソン編〜

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623日に、天狗のこみちマラソンという大会に参加した。

初心者には優しい10キロの大会なのだが、結果は声を大にして言えたものではない。

手を添えて耳元で、囁かなければならないほどの散々たるものだった。

だいたい30年近くも、運動とは無縁の生活を送ってきたのである。

半年程度の練習で、輝かしい記録を手に入れられるなんて、ムシが良すぎる。

 

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さて今回参加した天狗のこみちマラソン。

なかなかユニークな大会で、大雄山最乗寺の参道2キロほどを駆け下り、広域農道を抜けて、折り返し、再び最乗寺を目指す10キロの旅。

最乗寺までの坂は、駆け下りた車道ではなく、歩道を上っていく。

高低差200メートルの杉並木の中を、石段と苔むした小道が交互に出てくる。

最後に寺門へ続く長い階段を、息を切らして上り、ゴールとなる。

パワースポットが点在するなかを走るのも、魅力のひとつとなっている。

 

 

今回、一緒に走ったのは、トライアスロンを中心に出場しているMさん。

良きライバルというより、師弟関係と言ったほうが相応しい関係。

続々と集結するランナーを見て「このコースはマニアックだから、参加者も猛者揃いですね」とさらりと言う。

確かにパンツ姿から伸びた足は、太腿は幹のごとく隆々として、ヒラメ筋も舌平目の比ではない。

小ぶりのバナナの葉のようである。

 

マラソン大会の参加者は、ふたつのタイプに分かれるそうで、休日にそこそこの練習を重ねて、完走を目標とするタイプと、それでは飽き足らず、激坂を主戦場とする通称‘坂ばか’、ウルトラマラソンに全身全霊をかたむける修行僧タイプ。

後者はトライアスロンや山の尾根を駆け抜けるトレイルランへと、さらに細分化されていく。

 

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スタート直前、厳かに法螺貝が鳴り響き、ランナーはそれぞれに身を引き締め、これから始まる過酷な旅路に集中力を高める。

法螺貝や大会の安全を願っての祈祷は、天狗の修行場といわれた最乗寺を会場とした、この大会の特徴でもある。

 

9時、ピストンの合図でスタート。

初っ端は2キロにおよぶ急坂を下るだけに、いつもよりスピードが増して、一瞬にして高校生までに若返ったと勘違いするほど。

頭のなかで「♩あの頃君は若かった〜」と口ずさむ。

 

しかし青春の喜びも2キロまで。

すぐに長く延々と続く坂道が、目の前に立ちはだかる。

早くも若さが取り柄の学生時代に別れを告げて、社会の荒波に呑み込まれたとでも言おうか。

黙して語らず、周りのランナーに追い抜かれようと、自分ができるパーフォマンスを着実にこなすしかない。

 

マラソンに「練習は自分を裏切らない」という金言があるが、周りに惑わされて、実力以上に頑張ってしまうと、悲惨な結果が待っている。普段の練習の積み重ねが、相応の結果を生むという意味である。

マラソンはシンプルなスポーツゆえ、奥が深い。

 

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やがて折り返し地点となり、あとは復路を行くのみ。

下り坂が上り坂に、急斜面が急勾配に変貌する。

往路では青春の夢を見せてくれた参道が、豹変して、か弱い中年オヤジに牙を剥くのである。

この大会の特徴である、石段が点在する最後の登り坂。

それまで快調と思われた足が、ガシッと鉄球に繋がれたらようになり、呼吸もゼイゼイと荒くなる。

「ナンダ坂、コンナ坂」と減らず口を叩く余裕すらない。

 

完敗。

坂の途中で白旗を高々と掲げて、あとは足を引き摺るようにして石段を上り、這々の体でゴールイン。

完走した満足度より、もうこれで終わったという安堵感が、草臥れたオヤジの身体を包み込む。

 

中年オヤジの挑戦は始まったばかりである。

しかし、これから幾多の敗北が、勝利の行く手を阻んでいくのやら。

 

(店主YUZOO )

7月 5, 2019 店主のつぶやき | | コメント (0)

2019年7月 3日 (水)

感慨深きセルギエフ・パッサードのココロだ②

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今回、セルギエフ・パッサードの宿は、19世紀の文筆家シーシキンの生家を、ホテルとして改装したもの。

部屋数はプチホテルといっても差し支えないぐらい少ないが、赤レンガを基調とした、極力派手な装飾を排した内装で、とても落ち着いた雰囲気。

残念なことにシーシキンの業績や作品については、不勉強で何も知らないが、同時代に活躍したロシアを代表する画家、イワン・シーシキンとは関係ないようだ。

もちろんツナ缶とも関係ない。

 

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さてこの文章を読んだ人だけの朗報である。実は、セルギエフ・パッサード訪問の一番の目的は、現在、マトリョーシカの名実共に第一人者と呼んでも差し支えないマリア・ドミトリワさんを、日本に招聘するための打合せにある。

7月末に阪急うめだ本店のイベントに合わせて、来日してもらう予定で、期間中は、絵付け体験やワークショップなど、お客様にマトリョーシカつくりの楽しさや奥深さを知ってもらえばと、様々な企画を考えている。

マリアさんから直接絵付けを教わるなんて、マトリョーシカ愛好家には、至福のときとなるはず。

 

ぜひ多くのお客様に参加いただければと願っています。

詳細は日を追ってお伝えします。

 

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マリアさんと打合せが終わった後は、ナターリア・バローニナさんの仕事場へ。

以前は自宅でマトリョーシカを製作していたが、一部を改築するために、こちらに移ったらしい。

この建物は全体がアトリエににっていて、各階に絵描き、彫刻家、工芸家など、様々な芸術家が製作に勤しんでいる。

広い間取り、柔らかな陽射しが差し込む窓辺、市の中心部という好立地を考えると、芸術家にとっては、この上ない良い環境だろう。

ナターリヤさんも自宅には帰りたくないわと微笑んでいる。

羨ましいかぎりである。

(羨まし過ぎて、写真を撮るのを忘れてしまったが)

 

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その後も何人かの作家と会い、9時の日没まで時間があったので、世界遺産にもなっているトロイツェ・セルギエフ修道院に足を運んだ。

恥ずかしながら、何度もこの地を訪れているけれども、なかに入るのは初めてである。

もう観光客が帰る時刻なので、ほとんど人影がなく、ことのほか静かである。

初夏だけに中庭には花が咲き、鳥の囀りが聞こえる。

平日だというのに、賛美歌が厳かに歌われている。

その澄んだ歌声が、教会の高い天井に響き渡る。

静かに眼を閉じる。

耳を澄ます。

 

こうして魂が浄化されないと、人は生きていけないと、ふと思う。

 

ちょっとキザだね(笑)


 

 

(店主YUZOO 

7月 3, 2019 海外仕入れ店主のつぶやき | | コメント (0)